Vol. 28
「産業用火力設備の省エネ・脱炭素化でNet Zeroを推進」
私たち三菱重工パワーインダストリーは三菱重工グループの一員として、産業用火力設備・中小型バイオマス発電設備・地熱発電設備などの新規計画から開発・設計、調達、建設・試運転、そしてアフターサービスに至るまでのトータルソリューションを自社一貫ワンストップで提供するEPCエンジニアリング会社です。
当社はプラント設備の心臓部である強構造・高機能・高性能なボイラ、タービンを自社技術・設計で提供することが出来ることから、産業用火力設備の省エネルギー・脱炭素化を目指したプラントの設計、機器の調達、建設・試運転のプロセスを一貫して担っています。また、設備のホームドクターとしてお客さまに省エネルギー・脱炭素化へ向けた長期的な手厚いサポートを実現しています。さらにバイオマス発電設備、地熱発電設備にも積極的に取り組んでいます。
信州ウッドパワー株式会社向け林業用バイオマスプラント(当社パンフレットより)
三菱重工グループは、エネルギー供給側で脱炭素化を目指す「エナジートランジション」と、エネルギー需要側で脱炭素・省エネ・省人化を実現する「モビリティ等の新領域」を2つの成長領域に定め、これらの領域の事業を推進し、また既存の事業の脱炭素化・電化・知能化を推進することにより、2040年Net Zeroを実現し、カーボンニュートラル社会の実現に向けて貢献していくことを宣言しました。当社も産業用火力設備の省エネ・脱炭素化でNet Zeroを推進しており、その一環として以下の開発を行っています。
・ 産業用火力設備やバイオマス発電設備の心臓部となる、最先端技術を導入した「ボイラ」の独自開発。
・ 熱効率向上を目指した高温・高圧化対応。
・ 幅広い燃料種に対応した燃焼システムの開発・改良。
・ 噴流燃焼方式及び旋回燃焼方式用の各種水素焚きバーナー技術開発。
・ NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「水素社会構築技術開発事業」プロジェクトへの参画など、産学官連携による技術開発で成果を創出。
・ 新エネルギー活用に向けた水素・アンモニア吸蔵材料に関する研究を、広島大学エネルギー変換材料工学
研究室と共同研究。
これらの取り組みのうち、水素バーナーの開発についてご紹介します。
・化石燃料を水素に転換することで、CO2 排出量をゼロに
・水素の高圧化 + 低NOx技術 の採用でNOx発生量を最小レベルまで低減可能
水素は、従来主流のボイラ燃料であるLNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)に比べ、体積当たりのエネルギー密度が小さく、コンパクトな設備でボイラに必要な熱量を供給するためには、高圧による大量供給技術が不可欠です。
そこで当社独自の低NOx(窒素酸化物)ガスバーナ技術をベースに、水素の燃焼メカニズムを分析して最適化することにより、従来の最大供給圧力100kPaに対して900kPaまでの供給圧力での安定燃焼を達成しました。さらに、同一バーナーで0.1kPaから900kPaの広範囲(ターンダウン比:約1/100 [※1※2])にわたる圧力範囲の水素でも、安定した火炎を形成し安全に運転出来ることを検証しました。水素の高圧化によるNOx発生抑制に加え、二段燃焼方式などの採用で、LPG燃料と比べて大幅なNOx低減率実現が可能となり、目標としていた東京都の規制値である60ppm[※2]以下を達成し、さらに10ppm以下へと大幅に低減出来ることも確認しています。このNOx低減レベルは、世界でも類を見ないものです。
[※1]ターンダウン比とは、バーナー(燃焼器)における燃焼負荷の可変範囲のことで、安定な燃焼が可能な最小の燃焼負荷に対する最大の燃焼負荷の比で表したものです。
[※2]標準酸素濃度5%の設備の場合。
著者プロフィール
金谷 昌宏(かなたに まさひろ)三菱重工パワーインダストリー株式会社
技術開発総括部 事業化推進部 部長
1986年入社。製造部門で設備開発、生産技術、生産管理に従事し、現在に至る。