Vol. 14
「産業技術総合研究所のカーボンニュートラルに向けた取り組み」
世界的な脱炭素の流れの中で、我が国も2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする「2050年カーボンニュートラル」を2020年10月に宣言しました。経済活動を犠牲にせずに温室効果ガスを大幅削減して、パリ協定の1.5℃目標を実現するためには非連続なイノベーションが必要不可欠です。このような社会課題の解決に資するため、産業技術総合研究所(産総研)エネルギー・環境領域では、再生可能エネルギーの大量導入、省エネルギー技術の促進、高効率なエネルギー貯蔵、資源の有効利用、環境リスクの評価・低減などの技術開発に取り組み、将来のゼロエミッション社会の実現を目指しています。将来に向けては、技術開発や社会情勢等の様々な不確実性が存在します。そこで私たちは長期戦略をバックキャストに基づき設定し、想定される様々なシナリオを踏まえた上で研究開発のマイルストーンを設定しています(図1)。
図1 産総研エネルギー・環境領域のミッションと戦略
2050年カーボンニュートラルを実現するための対策には、エネルギー消費の削減(省エネ)と、エネルギーの脱炭素化があります(図2(a))。省エネには、エネルギー効率の高い機器の普及と、非電力エネルギー利用が中心となる技術をより効率の高い電力を使う機器に転換すること(電化)があります。エネルギーの脱炭素化は、電力分野では再生可能エネルギーの主力電源化や水素発電、CCS付き火力発電所等の活用が鍵となり、また非電力分野では、水素・アンモニア、バイオ燃料、合成燃料の利用促進があります。これらの対策を講じても排出を避けることができない二酸化炭素を、ネガティブエミッション技術を活用して回収・貯留することによって、はじめてカーボンニュートラルが達成できます。
(a)CO2排出削減のイメージ
※経済産業省 第4回グリーンイノベーション戦略推進会議ワーキンググループ(2020年11月27日)資料より
日本だけでなく世界全体での温室効果ガス削減に向け、非連続なイノベーションにより社会実装可能なコストを可能な限り早期に実現するために、政府は2020年1月に「革新的環境イノベーション戦略」を発表し、その中で温室効果ガス削減量が大きく、日本の技術力による大きな貢献が可能なものとして39の技術開発テーマを設定しました。私たちは、革新的環境イノベーション戦略の39テーマと、カーボンニュートラル実現のための対策を整理することにより、図2(b)に示す技術マップを作成しました。39のテーマのうち、産総研エネルギー・環境領域では図2(b)でハイライト表示をしている25テーマを実施しています(2021年11月末現在)。私たちはこれらの技術開発と社会実装を通じ、カーボンニュートラル、ひいてはゼロエミッション社会の実現に貢献していく所存です。
(b)実施中の技術開発テーマ(革新的環境イノベーション戦略39テーマ中25テーマ)
図2 産総研エネルギー・環境領域の技術マップ
※経済産業省 第4回グリーンイノベーション戦略推進会議ワーキンググループ(2020年11月27日)資料を基に産総研作成
著者プロフィール
工藤 祐揮(くどうゆうき)国立研究開発法人産業技術総合研究所 ゼロエミッション国際共同研究センター 総括研究主幹
専門はエネルギーシステム分析、ライフサイクルアセスメント。Well to Wheel分析、エネルギー技術のライフサイクルアセスメント、カーボンニュートラルに向けたエネルギーシナリオ作成などに従事。