Vol. 10
「三菱重工グループのカーボンニュートラルの取り組み」
地球温暖化やそれに伴う気候変動は人類共通の課題との認識が広まっており、脱炭素に向けた各国の取り組みが加速しています。その一方で、経済的・安定的なエネルギー供給といった課題にも真摯に向き合うことが求められています。
三菱重工では、グループの技術やリソースを結集して“サステナブルな脱炭素化社会の実現と電力の安定供給”に貢献する製品やサービスを社会に提供してきました。本稿では、次世代火力発電技術の社会実装事例として、当社グループの大崎クールジェンプロジェクトへの関わりと、カーボンニュートラルへ向けた取り組みを紹介します。
1. 石炭ガス化コンバインドサイクルシステム(IGCC)技術の取り組み
当社は、1980 年代から空気吹き及び酸素吹きの2つの石炭ガス化技術によるIGCC の開発に取り組み、効率、運用性、信頼性等を向上させてきました。広島県大崎上島の大崎クールジェンプロジェクトには酸素吹きガス化炉が適用されています。この実用化に向けて、図1に示すように着実なステップを踏みガス化炉のスケールアップ検証を行ってきました。
図1 酸素吹きガス化方式開発経緯(*1)
酸素吹きガス化炉は、石炭のガス化剤に高濃度の酸素を用いる方式で、図2に示すように円筒炉の上下段に複数のバーナを配置した独自の一室二段旋回型噴流床を採用しています。空気ではなく高濃度の酸素を使うことで、生成ガス中の窒素を減らしCO2回収が行いやすくなっています。またCO2分離後の水素は、化学用あるいは燃料として使用できます。
図2 酸素吹きガス化炉(*1)
大崎クールジェンプロジェクトは、大崎クールジェン(株)(中国電力(株)と電源開発(株)にて2009 年設立)がNEDOの助成事業として実施しており、3段階から成ります。第1段階は酸素吹きIGCC 実証試験,第2段階はこれにCO2分離回収設備を付加した実証試験、第3段階では更に燃料電池を組み合わせた実証試験で、現在は第3段階の試運転が進んでいます。
当社は第1段階において、石炭処理量1,180 トン/日の酸素吹きガス化炉、166MW 複合サイクル発電設備、電気・制御設備の設計・製作・据付・試運転を行うとともに、実証プラントの全体取り纏めエンジニアリングを行いました。また第3段階では、燃料電池の設計・製作・据付・試運転を行っています。
図3 大崎クールジェンプロジェクト設備構成(*1)
IGCC の特長は、幅広い石炭種が使える点です。ガス化炉で灰を溶融してスラグとして排出することから灰融点が低い石炭に特に適しており、従来の石炭火力発電で使用に制約があった亜瀝青炭や褐炭も適用可能です。
さらに酸素吹きIGCCは燃料電池技術と組み合わせることで発電システムをより高効率化できるとともに、CO2分離回収技術との親和性が高いこと、また化学工業分野への適用も可能であることから幅広い応用と普及が期待されます。
未利用資源で可採量が多いものには褐炭があり、酸素吹きガス化炉を活用して産炭国で水素を製造して市場へ供給することは、水素社会を実現する根幹技術ともなり得ることから、将来的な波及効果の高い技術ともいえます。
(*1)出典:三菱重工技報 Vol.56 No.3から引用
2.三菱重工グループのカーボンニュートラルの取り組み
三菱重工グループでは2021年10月、『MISSION NET ZERO』を掲げて2040年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を打ち出しました。これには当社事業に関連するお客様などによるCO2排出の削減を通じてNet Zeroを達成することも含まれ、バリューチェーン全体を通じた社会への貢献を目指すものです。当社グループは、発電効率向上とCO2排出削減に寄与し、資源の有効利用と環境保全を両立する次世代火力発電テクノロジーをはじめ、お客様の既存設備の脱炭素化も含めた幅広いメニューを保有しており、多様な解決策を提案することで、世界のCO2排出削減に貢献していきます。
図4 目標達成に向けたロードマップ
Scope1,2:算出基準は、GHGプロトコルに準じる。
Scope3:算出基準は、GHGプロトコルに準じる。但しこれに独自指標のCCUSによる削減貢献分を加味。
著者プロフィール
下郡 嘉大(しもごおり よしお)三菱重工業株式会社 エナジートランジション&パワー事業本部
SPMI事業部 呉ボイラ技術部 主幹技師
30年近く火力発電用ボイラーの設計、技術開発に関わり、2019年から現職