Vol. 7
「J-POWERのカーボンニュートラルに向けた取り組み」
電源開発(J-POWER)は「人々の求めるエネルギーを不断に提供し、日本と世界の持続可能な発展に貢献すること」を理念として掲げ、これまで水力、火力、風力、地熱による発電及び送変電事業に取り組んできました。2021年2月、当社はJ-POWER “BLUE MISSION 2050”を発表し、2050年に向けて発電事業のカーボンニュートラル化実現に向けた挑戦を表明しました。
本コラムでは、“BLUE MISSION 2050”に基づくJ-POWERの取組みについて紹介します。
図1.J-POWER “BLUE MISSION 2050”ロードマップ
1.大崎クールジェンプロジェクト
豊田郡大崎上島町にて、酸素吹石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業である大崎クールジェンプロジェクトを中国電力(株)と共同でNEDOの助成事業として実施しています。
プロジェクトは3段階に分けられ、第1段階として石炭をガス化して複合発電を行う酸素吹IGCCの実証、第2段階としてCO2分離回収設備を組み込んだ実証、第3段階として燃料電池を組み込んだCO2分離・回収型IGFCの実証試験を行います。第2段階ではCO2回収効率90%、CO2回収純度99%の基本性能の目標を達成し、現在、第3段階の建設工事が進んでいます。
今後、回収されたCO2を液化・貯蔵・輸送し有効活用する実証事業も実施予定です。
また、大崎地点は国のカーボンリサイクル技術に関する研究拠点として指定されており、回収したCO2は研究に活用される予定です。
図2.大崎クールジェンプロジェクト概要図
2.微細藻類によるグリーンオイル生産の取組み
J-POWERは2008年より海洋微細藻類の光合成に注目し、CO2から燃料や化学製品を製造する技術開発を進めています。当社が保有する海洋ケイ素(ソラリス株/ルナリス株)は光合成によりCO2から燃料や化成品に活用できるグリーンオイルと共に健康食品や医療品原料に利用可能な高付加価値物質を生み出すことが出来ます。現在、2030年頃の実用化を目指し、大量培養する技術開発を進めています。
図3. ソラリス/ルナリスによる炭素循環社会への貢献
3.CO2からの化学品・燃料の製造
流通量の大きい化学品や燃料をCO2から製造することは、CO2の利用拡大のための有効な手段です。化学品の基礎原料であり、燃料用途としての利用も期待されているメタノールは、CO2と水素からの合成技術は確立しているものの、収率が低いことが課題です。そこで当社は高い収率を達成できる反応器の研究や、富山大学と共同でCO2分離・回収技術との組み合わせでメタノール生産を効率的に行うプロセスの研究を進めてきています。
4.沿岸地域でのCO2固定化・ブルーカーボン
我が国は、沿岸域の海洋生物によるCO2吸収・固定化のポテンシャルが大きくあります。当社は、ブルーカーボンの観点から優れた藻類付着に加えて、原材料に起因するCO2量の削減が期待できる、石炭灰と同スラグを活用したモルタルブロックを海洋構造物へ適用する技術の開発を進めています。
カーボンニュートラル化は社会のあらゆる側面での変革を必要とし、各セクターにおいて多面的重層的な取組みが求められます。当社は化石資源を使用したエネルギー転換を生業とする企業として、低炭素化とその先の炭素中立を早期に実現すべくJ-POWER “BLUE MISSION 2050”に掲げるアクションに”加速性”を持って取り組み、カーボンニュートラル社会の実現に挑戦してまいります。
著者プロフィール
中村 郷平(なかむら きょうへい)電源開発株式会社 火力エネルギー部 開発室長
1997年入社。石炭火力発電所の環境対策設備の運用管理を皮切りに、以降、石炭ガス化プロジェクトにて、ガス精製、CO2分離回収技術の開発等に従事。2020年より現職。埼玉県出身。