リレーコラム

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CARBON CIRCULAR ECONOMY

Vol. 41

「脱炭素をきっかけとしたDXの推進」

i Smart Technologies(株)は旭鉄工(株)の関係会社であり、同社が開発したIoTシステムとノウハウを他社に展開している。

 

旭鉄工(株)はトヨタ自動車(株)の1次サプライヤーとして、エンジン、トランスミッション、サスペンション、ブレーキなどの部品を製造している企業である。カイゼンを加速するためのIoTシステム「iXacs(アイザックス)」を自社開発し工場カイゼンに活用することで労務費を年間4億円も削減するなど大きな成果を上げている。

 

カーボンニュートラル(CN)への対応は、製造企業にとって差し迫った経営課題の一つとなっている。月毎あるいは1年ごとの電力やガスの消費量を調査し排出量を可視化するサービスは世の中にあるが具体的な削減に繋げるのは困難である。そこで、同社は「iXacs」活用によるCO2排出量の削減を狙い、工場の建屋などの一定以上の大きさのエリア毎に電力とガスの消費量をモニタリングして、10分ごとのリアルタイムのCO2排出量を可視化した。これによりCO2排出量削減に向けた具体的な打ち手が明らかになった。例えば、ほとんどの設備を止めている夜間の工場でも、大型のコンプレッサが大量の電力を消費していること等がわかり、これを小型のコンプレッサに置き換えただけで、年間260万円も節電(CO2排出量削減)できた。

 

しかし、更なるCO2排出量の削減のために製造ライン毎や製品毎の排出量を可視化するには工場の全ての生産設備にセンサーを取り付ける必要があり相当の手間やコストがかかる。そこで同社は設備の稼働状況から「ムダな排出量」を計算する、“実測ベース推計値”という独自の方法を考案した。従来から旭鉄工では200もの製造ラインの稼働状況がリアルタイムでモニタリングされている。これに加えて電力ロガーという測定機器により電力消費量を一定期間だけ実測する。そしてデータフィッティングという手法を用い、稼働状況から電力消費量を計算する関数を求める。その関数に稼働状況のデータを代入することでリアルタイムで「ムダな排出量」を計算できるようになる。この関数は停止・稼働のリアルタイムの状況及び異なる品番に対する消費量の違いについても追従可能で、しかも計算値と実測値の誤差が1%程度という高い精度を誇る。更に重要なことは、電力消費量を「正味電力(付加価値を生み出す電力)」「停止電力(設備トラブル等によりロスする電力)」「待機電力(昼休みや稼働終了後に消費する電力)」に分けることができる点である。停止電力や待機電力は正味電力の50-60%にも上るものが多く、工場やオフィスのこまめな消灯等よりも、生産設備の待機時間や停止時間を短くする方が、はるかにCO2排出量削減効果が大きい。

 

 

 

図1 電力消費量を稼働データの関数として算出しCO2排出量を見える化
この可視化により多くの製造ラインの電力消費量の正味率(消費量における正味の割合)は30-50%にとどまることが分かった。その対策として「不要な時は電源を切る」という単純なものが大きな効果を上げている。例えば同社のタイ現地法人であるSiam Asahi Manufacturingでの12月8日と3か月後の3月8日のそれぞれ1日の電力消費量を1時間毎に可視化したグラフを次に示す。は24の製造ラインにおいてこまめな電源オフを行うことで正味率が55→87%、電力消費量はなんと42%も低減している。

 

 

 

図2 旭鉄工タイ現地法人における可視化による電力消費量低減の効果
このように、工場のIoT化によるムダなCO2排出量の可視化は、コストを掛けることなくCN対応を大きく前進させることができる。これまで工場カイゼンのツールとしていた『iXacs』を、脱炭素のためのツールとしてアピールしたところ、具体的な商談に進むケースが増えてきたという。CO2排出量削減は電力料金の削減につながり、電力価格高騰の中、経営にも大きなメリットをもたらす。同社は、競争力強化とCN対応の両立は十分可能であるとしている。
出所:旭鉄工(株)

著者プロフィール

木村 哲也(きむら てつや)

旭鉄工株式会社/i Smart Technologies株式会社 代表取締役
JDXアドバイザー/愛知県ビジョン策定委員/IPA 社会実装推進委員 兼務

2016年 旭鉄工株式会社 代表取締役に就任、2014年度より始めたIoT部門を分社化、
i Smart Technologies株式会社を設立、 代表取締役に就任
自社開発IoT「iXacs」を活用した改善活動にて4億円/年労務費節減及び、
CO2電力分排出量26%低減 を実現 ※2013年度比