リレーコラム

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CARBON CIRCULAR ECONOMY

Vol. 16

「水素の価格破壊の必要性」

 株式会社X-Scientia(クロスサイエンティア)は、先端技術の社会実装の加速を目指して2019年に創業したスタートアップである。2018年末に公開したグリーン水素の安価な製造を可能とするシステムを早期に実現し、社会に貢献する事業として成立させることが当面の目標だ。

 

 日本は、2009年の家庭用燃料電池の一般市販化開始、2014年の燃料電池自動車の一般市販化開始、2017年に水素基本戦略の策定、など水素・燃料電池分野で先導的な役割を担ってきた。水素基本戦略では、2030年に30円/Nm3の水素製造原価が明記され、水素製造に関する技術開発や技術実証が着実に進められている。他方、2018年の1.5℃特別報告書公表以降のカーボンニュートラルに向けた潮流の加速は著しく、世界各国で、水素経済の実現に向けた動きが先鋭化している。2021年6月に公表された米国Hydrogen Shotでは、”$ 1 per 1 kilogram in 1 decade”という、”1 1 1”が目標として定められ、欧州では、2021年11月には1.8ユーロ/kg以下の2030年コスト目標が設定された。米国では2021年11月にインフラ法案が可決され、クリーン水素に対する15億ドルの投資が記された。2020年7月に欧州委員会は、2030年までに域内で40GW、域外で40GWの水素製造能力を目標として定めた。水素製造の原価や技術水準を目標とする日本と、巨額の資本を投資し水素製造インフラを実証・実現しようとする欧米とを俯瞰して、2030年には「技術で勝って、ビジネスで勝つ」という姿をどのように実現するのかが、私たちが直面する命題である。当然、「性能や耐久性・品質に優れるが高い」という姿は、「技術で勝って、ビジネスで負ける」という旧態のままであり、現状では圧倒的に高い水素の価格破壊を可能な限り早期に実現することが必須なのである。

 

 そのため、弊社では安価な水素製造を早期に実現するべく構想を練っている。具体的には、環境省の地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業において、アサヒプリテック株式会社が実施する「副産物の有効活用によるグリーン水素サプライチェーン構築に向けたシステム開発」に参画し、図1に示すように副産物を活用することで水素を安価に製造する技術の実証に取り組むとともに、実証後の自立的商用展開に向けた可能性を模索している。

 


図1 副産物を活用した水素製造システムの模式図
(図はhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000072172.htmlより)

 

 

 安価な水素製造を実現することは、経済的なカーボンリサイクルの実現にもつながり、カーボンサーキュラーエコノミーの実現にも資する取り組みである。水素の価格破壊を早期に実現し、カーボンニュートラル・カーボンリサイクルに貢献していきたいと考えている。

著者プロフィール

古山 通久(こやま みちひさ)

株式会社X-Scientia 代表取締役/ヴェルヌクリスタル株式会社 取締役/株式会社マテリアルイノベーションつくば 研究戦略企画部長/信州大学先鋭材料研究所 教授・データ駆動型AIラボ長/プラチナ構想ネットワーク サーキュラーエコノミーワーキンググループ主査