リレーコラム

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CARBON CIRCULAR ECONOMY

Vol. 5

「バイオマスバリューチェーン構築への挑戦」

 人類が最初に実用化したプラスチックは「セルロイド」だと言われています。昭和以前の世代の方には黄色い風呂桶やレトロな玩具などでおなじみの素材で、以前は卓球の公式球に使われていたことでも知られています。また、今でもその美しさから高級メガネフレームなどに使われています。セルロイドは、植物の骨格の主成分であるセルロースの誘導体の硝酸セルロースに、これも植物由来である樟脳を加えて作られています。最近では、地球温暖化防止や循環型社会の観点からバイオマスプラスチックが注目されていますが、そもそも人類最初のプラスチックはバイオマスプラスチックというわけです。

 

 筆者が所属する株式会社ダイセルは、1919年に国内セルロイドメーカー8社の合併により「大日本セルロイド」として発足いたしました。姫路市の網干工場の敷地内には、セルロイドの技術指導のために招かれた技術者の宿舎として建設された洋館が「ダイセル異人館」として残っています。

 

 セルロイドは、その極めて燃焼しやすいという性質がネックになり、近年ではあまり見かけなくなりましたが、置換基をニトロ基(硝酸)からアセチル基(酢酸)に変えて不燃化を実現した「酢酸セルロース」は、今でも当社の主要製品であり、包装容器、繊維、液晶保護用などのフィルム、化粧品などの原料として広く利用されております。最近では、より生分解しやすい分子構造を見出し、特に海洋での生分解速度をさらに高めた新製品「CAFBLOTM(キャフブロ)」を開発し、環境対応素材としての普及を目指しております。

 

 

 一方、カーボンニュートラルや循環型社会の実現という観点では、バイオマスプラスチックである酢酸セルロースにも課題があります。それは、植物(木材等)を出発原料とし、そこからセルロース(パルプ)を分離し、酢酸セルロースに至る製造プロセスにおいて、多量のエネルギーを消費し、産業廃棄物となる不要成分が生じてしまうことです。この課題を克服すべく、本年2月に策定した中期計画Accelerate 2025-IIにおいて、木材等を丸ごと溶解する技術を起点とした環境に優しい技術による新しい「バイオマスプロダクトツリー」の構築を目指すこととし、また、さらにこの考えを昇華させて、「バイオマスバリューチェーン」を提唱いたしました。これは、農業廃棄物、古紙、森林再生に伴う間伐材などを「バイオマスプロダクトツリー」において活用することにより、二次産業における循環型経済の構築のみならず、一次産業と二次産業の共創循環を通じて、農林水産業の競争力強化や里山、河川、海などの環境・生態系の再生を目指すという概念です。

 

 

 当社は人類最初のバイオマスプラスチックであるセルロイドを祖業とし、また、長年にわたりセルロース事業を営んできた会社として、その原点を見つめつつ、社外パートナーも巻き込んだ価値共創とイノベーションによって、循環型社会の実現に貢献する所存です。

 

【参考リンク】

中期計画Accelerate 2025-II https://www.daicel.com/news/assets/pdf/plan2_jp.pdf 

バイオマスプロダクトツリーの解説(動画) https://youtu.be/YJKdjqab5Iw

著者プロフィール

秋田 和之(あきた かずゆき)

株式会社ダイセル サステナブル経営推進室 サステナブル経営推進グループリーダー

大阪府出身、1987年入社。主にプロセス開発技術者として、医薬中間体プラントの建設や省エネルギープロセスの開発等に従事。2014年より、一般社団法人日本化学工業協会に出向し、2017年には「SDGsに向けての化学産業のビジョン」の策定に事務局として参加。ダイセルに復職後、2019年より現職。